新人時代の「あの緊張感」、忘れていませんか?
トリマーになりたての頃、初めてハサミを持った時の手の震え、バリカンを当てる角度一つひとつに神経を尖らせていたあの感覚。 経験を積み、技術が向上するにつれて、あの頃の緊張感は薄れていっていないでしょうか。
「この犬種なら大丈夫」「いつもおとなしい子だから」 その「慣れ」こそが、取り返しのつかない大きな事故の引き金になります。 今回は、ベテランや経験者こそ陥りやすい「魔の瞬間」と、プロとしての安全管理について改めて考えます。
1. なぜ「ベテラン」が事故を起こすのか?
事故は新人の専売特許ではありません。むしろ、ある程度経験を積んだスタッフによる事故の方が、油断から生じるため重大化しやすい傾向があります。
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確認の省略(ショートカット): 「いつもは大丈夫だから」と、保定の確認や皮膚の状態チェックを無意識に飛ばしてしまう。
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過信と慢心: 「自分の技術なら多少動かれても大丈夫」という過信が、無理な体勢での施術につながる。
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「ながら作業」の増加: 手元を見ずに他のスタッフと会話したり、次の予約のことを考えながら作業してしまう。
これらはすべて、プロとしての「緩み」です。
2. 「慣れ」が引き起こすトリミング事故の典型例
現場で実際に多発している、ヒヤリハットでは済まされない事故例です。
① バリカン・ハサミによる「切り傷(創傷)」
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状況: 脇の下、耳のフチ、足指の間など、皮膚が薄く見えづらい箇所で多発。
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原因: 「慣れ」からくる皮膚の確認不足や、保定が甘いまま刃物を動かしてしまうこと。特に年末などの繁忙期、時間に追われている時に急増します。
② トリミングテーブルからの「落下・首吊り」
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状況: ほんの数秒、道具を取るために目を離した隙に、犬が動いて落下。
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原因: 「おとなしい子だから動かないだろう」という思い込み。最悪の場合、骨折や首吊り状態による死亡事故につながります。「体の一部は必ず触れておく」という基本原則の形骸化が原因です。
③ シャンプー時の「誤嚥(ごえん)・熱傷」
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状況: シャワーのお湯を気管に入れてしまったり、熱すぎるお湯をかけてしまう。
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原因: 温度確認のルーティン化(形骸化)や、顔周りを洗う際の漫然とした作業。誤嚥性肺炎は、数日後に症状が出て命に関わるケースもあります。
3. 事故を防ぐための「初心への回帰」アクション
今日から店舗全体で徹底すべきアクションです。
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「指差し確認・声掛け」の導入 「リードフックかけました」「お湯加減よし」。一人での作業でも、あえて声に出すことで脳を覚醒させ、「慣れ」による見落としを防ぎます。
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ヒヤリハットの共有を「評価」する 「危なかった!」という事例を隠さず報告したスタッフを褒める文化を作ってください。小さなヒヤリハットの共有が、大きな事故の芽を摘みます。
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「かもしれない運転」をトリミングでも 「この子は急に動くかもしれない」「関節が痛くて暴れるかもしれない」。常に最悪の事態を想定して動くのがプロの仕事です。
4. まとめ:過信は禁物。プロの誇りは「安全」に宿る
厳しいことを申し上げましたが、事故はトリマー自身の心も深く傷つけます。自信を喪失し、ハサミを持てなくなるスタッフもいます。 技術への自信は大切ですが、過信は禁物です。
そして経営者の皆様。どれだけ注意していても、人間が関わる以上、ミスをゼロにはできません。 万が一の事故が起きた際、飼い主様への誠意ある対応(治療費等の補償)と、スタッフを守るための備えとして、「ペット事業者賠償責任保険」は必須です。
日本ペット事業者支援協会では、トリミングサロン運営におけるリスク管理のサポートを行っています。 今一度、お店の安全管理体制を見直してみませんか?
